『犯罪者 下』 太田 愛

人気ドラマ「相棒」などの作品で脚本家として活躍されている太田愛氏の小説デビュー作。今回は上・下巻構成のうちの下巻です。

上巻では最初から最後までノンストップで感情を揺さぶられ続けたわけですが、期待値が上がった状態で読む下巻は果たしてどうか。

 

さー早速結論からいきましょう!

本作は下巻の最後までページをめくる手を止めることができなくなるいわゆる徹夜本でした(・∀・)いやもうまさに、アンストッパボー!何使ったって止めらんねぇ!

※実際には徹夜はしていません。2日ほど通常より睡眠時間を削っただけです(;^ω^)

上巻は通り魔事件から始まって無関係とも思える多くの要素を絡めながら物語を展開していくパートであり、下巻はクライマックスに向けて物語を一気に収束させていくパートを担っている。分量の影響もありますが、個人的には下巻の方がスピード感に溢れており、短い時間で読み終えることができました。

 

さて、上・下巻合わせて1000ページに迫るかなりボリューミーな本作。先述した通りスピード感溢れる内容なので体感的にはそこまで冗長だと感じませんでしたが、とはいえやっぱり普通に長いですよね。おそらく著者以外の作家が同じような作品を書くならば、一冊にまとめるんじゃないかと思います。

では、なぜ著者の手にかかるとここまでの分量になるのか。その答えは下巻の最初に置かれている第10章に如実に表れています。詳述は避けますが、いやいやこの人にここまでページを割いちゃうの!?って感じ(^^;)著者はとにかく登場人物について丁寧に掘り下げていくんです。3人いる主人公については当然のことながら、その他の登場人物(第10章の彼らは極端だとしても)についてもガッツリ掘り下げる。それにより厚みを増した物語に読者はググッと引き込まれることになるのです。

 

本作の特徴をもう一点あげるとすれば、実際にありそうだなと思わせるリアリティを持つこと。日本企業の隠蔽体質や政財界のズブズブの癒着関係など、さもありなんといった問題について緻密に描かれているところ、加えて、さらりと正確な言葉が使われているところにも本作の持つリアリティは依拠しているんだろうと思う。

一例として、終盤にとても自然な形で物語の契機となった通り魔事件の被害者の遺族のインタビューが挿入されているのだけれど、その中の一人に関する記述の中に「有料介護施設」って言葉が出てきます。この言葉、介護業界の人以外には違和感ありませんか?「有料」って当たり前じゃないの?って。でもこれであってるんですよね。確か外国語の直訳だからこんな変な名称になってたんじゃなかったかな。小さなことなんだけど著者の細やかな配慮を感じます(^.^)

 

タイトルでもある「犯罪者」は本作において登場人物の誰のことを指しているのか。一般的には、犯罪者=悪という構図で語られることが多いが、果たしてそう単純な話なのか。本作を読み進める中で自然とそういったことを考えてしまう。ハラハラドキドキのエンターテインメントであることに間違いはないが、現実世界と同様にあらゆる問題がすっきり解決するというわけではない。やるせない思いもすることになるだろう。それでも、上・下巻通して読み終えた今、やっぱり本作を読んでよかったと思える。いい時間を過ごさせてもらい感謝です。

 

本作を読んだ多くの人が同じように感じると思うけど、ぜひ実写化してもらいたいなー!映像で見たいぞ☆もちろん著者の脚本で!

ちなみに本作『犯罪者』はシリーズものの第一作でして、第二作『幻夏』、第三作『天上の葦』へとつながっていきます。すでに文庫化されている『幻夏』は近いうちに読む!すでに購入済み!んで、『天上の葦』は文庫化を待ちます♪いやはや楽しみじゃ(≧▽≦)


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